導入
月次レポートや営業KPIの集計を毎回Excelで手作業していませんか。ピボットや関数を組み直すたびに時間がかかり、集計はできても「示唆」まで書けないという課題を抱えている方も多いでしょう。
本記事では、ChatGPTの「高度なデータ分析(Data analysis / Advanced Data Analysis)」を使い、Excel/CSVをアップロードして集計・簡易グラフ・要点整理(文章化)までを短時間で形にする手順を初心者向けに解説します。
前提知識と用語のやさしい定義
高度なデータ分析(Data analysis)
ChatGPTにファイル(CSV/Excelなど)を渡すと、データの構造を把握し、必要に応じて計算や集計を行って回答を作る機能です。画面や名称、利用条件はプランや更新で変わる可能性があるため、表示が異なる場合は公式ヘルプを参照してください。
CSV / Excel
- CSV:表データを「カンマ区切りのテキスト」で保存した形式。機械処理に適しています。
- Excel(.xlsx):表計算ソフトの形式。結合セルや複数シートがあると読み取りが難しくなることがあります。
スキーマ(schema)
「この列は日付」「この列は金額」「この列は担当者名」のような列の意味・型のこと。列名や単位が曖昧だと誤解が起きやすくなります。
準備(必要なアカウント/料金プラン/権限/注意点)
アカウント/プラン
- ChatGPTのアカウントが必要です。
- ファイルアップロードやデータ分析機能の可否、回数制限、ファイルサイズ上限は、プラン・地域・時期により異なります。最新の公式FAQで必ず確認してください(記事末尾の「参考」参照)。
社内利用の注意点(最初に決めること)
- アップロードするデータの分類(機密/個人情報/取引先情報) を確認し、社内規程に従ってください。
- 迷う場合は、次のいずれかで開始することをお勧めします:
- (a) 匿名化(氏名・メール・顧客ID等を削除/置換)
- (b) サンプル化(期間や件数を絞る)
- (c) 集計済みデータのみ(生データを入れない)
手順(画面操作を想定したステップ+コピペできるプロンプト例)
ここでは「月次売上のCSVから、KPIと要点をまとめる」流れを例に説明します。
Step 0:データを"AIが読みやすい形"に整える(重要)
- 1行目をヘッダー(列名)にする
- 列名に意味を入れる(例:
order_date,amount_jpy,product,channel) - できれば「1シート・結合セルなし」
- 単位(円/千円、税込/税抜)をメモしておく
Step 1:ChatGPTで新しい会話を作る
通常のチャット画面で問題ありません。毎月繰り返す用途なら、会話やファイルをまとめられる機能(名称は環境により異なる)を使うと管理しやすくなります。
Step 2:ファイルをアップロードする
入力欄付近の添付ボタン(クリップ等)からCSV/Excelを添付します。
Step 3:最初の指示(プロンプト)を送る
最初に「列の意味」「期間」「出したい成果物」を明確にします。
プロンプト例(テンプレート)
あなたは事業会社のデータアナリストです。添付の売上データを分析してください。
前提:
- 期間:直近12か月
- 金額の単位:円(税抜)
- 目的:経営向けの月次サマリーを作る
やってほしいこと:
1) データの列(スキーマ)をあなたの理解で要約し、不明点があれば最初に質問してください
2) 月次の売上合計・注文数・平均単価を集計してください
3) 前月比と前年差(可能なら)を出してください
4) 変化の大きい要因候補(商品/チャネル/地域など)を上位3つ、根拠の数値つきで示してください
5) 最後に、経営向けに200〜300字で「結論→根拠→次アクション」の順で文章化してください
Step 4:前提確認のやり取り(精度を上げるコツ)
ChatGPTが列を取り違えそうな場合は、こちらから列定義を固定します。
追加プロンプト例(列の意味を固定)
補足します。
- 注文日:order_date(YYYY-MM-DD)
- 金額:amount_jpy
- 注文ID:order_id
- 商品名:product_name
- チャネル:channel(EC/代理店/直販)
この定義で集計し直してください。
Step 5:検算と再現性(“根拠の見える化”)
「それっぽいが合っているかわからない」を防ぐため、次をセットで依頼します:
- 前処理(欠損/重複/除外条件)
- KPIの算出式(平均単価などの定義)
- 主要数値のサンプル突合の方法(Excelでの確認手順)
追加プロンプト例(検算)
集計の前処理(欠損/重複/除外条件)を箇条書きで説明し、
売上合計・注文数・平均単価の定義(算出式)も明記してください。
主要KPIはExcelで検算できるよう、検算手順も提案してください。
Step 6:成果物を"社内で使える形"に整える
用途に合わせて出力フォーマットを指定すると、社内共有しやすくなります。
プロンプト例(会議資料向けの体裁)
出力を次の体裁に整えてください。
- 見出し:今月のサマリー(3行)
- KPI表:売上/注文数/平均単価/前月比/前年差
- 論点:変化要因(箇条書き3つ、各1行で根拠数値つき)
- 次アクション:2つ(担当ロールも添えて)
ビジネスでの具体例(職種別)
営業(Sales)
- 案件/受注データから「失注理由トップ」「停滞ステージ」を抽出し、次週の重点フォロー先を作る
- 週次の数値報告を「結論→根拠→打ち手」に整形して、報告品質を平準化する
マーケティング
- 広告のCSV(媒体×日付×費用×CV)から、CPA悪化の要因を媒体/曜日/キャンペーン単位で切り分ける
- キャンペーン終了後に、数値サマリー+学び(次回改善案)を文章化してナレッジ化する
経営企画/管理部門
- 月次KPIをまとめ、前年差・前月比と「なぜ増減したか」の説明文を下書きする
- 部門別のKPIから異常値候補を拾い、確認依頼の文面(誰に何を確認するか)まで用意する
よくある失敗と回避策
1. 列の意味を誤解される- 回避策:列定義(税抜/税込、通貨、日付形式、返品の扱い)を最初に明記する2. Excelが複雑(結合セル/複数シート)で読み取りが崩れる- 回避策:分析用に「1シート」「ヘッダー1行」「結合なし」に整形し、必要ならCSV化する3. 指標定義がズレる(平均、件数、ユニーク数など)- 回避策:KPIの算出式を文章で固定し、前処理(重複除外、欠損扱い)も指定する4. 結果がそれっぽいが、検算できていない- 回避策:主要KPIはサンプル抽出してExcelで突合し、矛盾が出たら前処理条件を見直す5. 制限で途中停止し、作業が途切れる
- 回避策:最初に「必要な出力」を一度に依頼する。回数・容量などの上限は公式FAQで最新情報を確認する
セキュリティ/コンプライアンス観点(社内利用の注意)
データ最小化(Minimization)
- 生データをそのまま入れず、可能なら「必要な列・必要な期間」だけに絞る
- 個人情報は原則、匿名化または除外(社内規程が許容する場合のみ例外)
学習利用(トレーニング)とデータコントロール
- サービスの種類(個人/組織)や設定によって、会話やデータの扱いは変わり得ます
- 社内利用では、必ず「データが学習に使われるか」「履歴の保存」「管理機能」を確認し、情報システム/法務の承認プロセスに沿って運用してください
監査・説明責任(Accountability)
- レポートに使う数値は、算出条件(フィルタ/除外/定義)を残す
- "AIが言ったから"ではなく、最終成果物の責任者と確認手順を明確にする
FAQ
**Q1. 無料でも使えますか?**利用可否や制限(回数・容量・同時処理など)はプランや時期により変わる可能性があります。最新の公式FAQを確認してください。**Q2. ExcelとCSV、どちらが向いていますか?**基本的にはCSVが安定します。Excelを使う場合は、結合セル・複数シート・装飾が多い状態を避け、可能なら分析用に簡素化してください。**Q3. 出力された数値はどこまで信用できますか?**まずは「定義」「前処理」「フィルタ条件」を明示させ、Excelでサンプル突合して妥当性を確認してください。重要なKPIは二重チェックが前提です。Q4. 社内データを入れる場合の最初の一歩は?
匿名化・サンプル化・集計済みデータから始めるのが安全です。社内のデータ分類と規程に照らし、情報システム/法務のルールに従ってください。
まとめ(次のアクション)
ChatGPTの高度なデータ分析は、Excel/CSVを渡して「集計→要因→文章化」までを短時間でつなげられるのが強みです。一方で、列定義の曖昧さと社内データの取り扱いが失敗の主因となります。
次のアクション(おすすめ順)
- 公開して問題ないサンプルCSVで、テンプレートプロンプトをそのまま試す
- 自社KPI定義(売上、粗利、受注数など)をプロンプトで固定し、毎月の"型"を作る
- 社内利用は、データコントロールとデータ分類、確認手順(検算・承認)を明文化する
参考(公式・一次情報中心)
- OpenAI Help Center: Data analysis(ChatGPT)
- OpenAI Help Center: File uploads / ファイル関連のFAQ
- OpenAI Help Center: Data Controls / データコントロール
- OpenAI Trust Center(セキュリティ関連の一次情報)
※本記事は一般的な情報提供であり、法務・監査の個別助言ではありません。最終判断は社内ルールおよび専門家にご確認ください。